2026年2月、タバコと塩の博物館など、東京東部のタバコ関連施設等を調査しました
2026年2月、東京東部のタバコ関連施設等を調査しました。
1.タバコと塩の博物館
墨田区にあるタバコと塩の博物館を訪れました。運営は日本たばこ産業、いわゆるJTです。タバコと塩という独特のテーマを掲げ、日本における専売制度の歴史や、世界各地の塩づくり、タバコ製造の技術変遷などを紹介する施設です。建物はきれいで展示も丁寧に作り込まれており、企業ミュージアムとしての完成度は高いと感じました。
塩の展示は特に充実していて、古代の製塩法や流通の歴史、塩が人類にとっていかに重要だったかを分かりやすく学べます。自由研究にも使えそうな内容で、子ども連れの来館者も多く見かけました。しかし、その動線の先には当然のようにタバコの展示があります。塩を目当てに来た子どもたちが、自然な流れでタバコの歴史やパッケージ、広告の変遷を眺める構造になっており、企業としては実に巧みだと感じました。
一方で、タバコの健康被害についての説明は驚くほど控えめです。肺がんや心疾患、受動喫煙の深刻さといった現代的課題への踏み込んだ記述はほとんど見当たりません。その代わり、タバコは「文化」であり、文学や芸術、社交と結びついてきた存在だという側面が強調されています。歴史的資料やポスターは確かに興味深いのですが、全体としてタバコに対して肯定的な印象を与える演出が目立ちます。禁煙を推進する立場から見ると、企業広報の延長線上にある空間だと感じざるを得ません。
周辺エリアが「JT周辺一帯」と呼ばれていることにも違和感を覚えました。企業名が地域名称のように定着している様子は、まるで企業城下町のようで、公共性との距離感に少し気味の悪さを感じます。
さらに館内には、JTの科学技術の粋を集めた喫煙室が設置されています。外にタバコの臭いが漏れ出しており、近くを通るだけで目がシバシバしました。やはり分煙は完全ではなく、技術で解決できるという発想そのものに限界があることを実感しました。
1階にはミュージアムショップもあり、関連グッズや書籍が並びます。全体として見ればよくできた施設ですが、タバコの害を直視せず文化的側面を強調する展示構成には強い違和感を覚えました。禁煙推進の立場からすれば、学びというよりも、改めてタバコ対策の必要性を確信する訪問となりました。

2.小野照崎神社
台東区に鎮座する小野照崎神社を訪れました。学問と芸能の神様として知られ、受験生と役者志望が同じ境内で真剣に手を合わせる、なんとも守備範囲の広い神社です。最寄りはJR鶯谷駅と東京メトロ日比谷線入谷駅。下町らしい空気の中を歩いていくと、こぢんまりしながらも凛とした佇まいの社殿が現れます。
この神社の名を一躍有名にしたのが、俳優の渥美清の逸話です。売れない時代、「タバコをやめるから売れるようにしてください」と願掛けをしたところ、まもなく映画男はつらいよのオファーが舞い込み、その後は日本を代表するトップ俳優に。偶然と言ってしまえばそれまでですが、禁煙という決断と大ブレイクのタイミングが重なっているのが実に象徴的です。やはり人生の転機には、何かを断つ覚悟が必要なのかもしれません。
しかも劇中で寅さんが首から下げているお守りは、この小野照崎神社のものだそうです。スクリーンの中でもしっかり神頼み。全国の観客が寅さんを応援しながら、実は神社のご利益も一緒に見守っていたと思うと、なんとも粋な話です。
境内の絵馬には「第一志望合格」「大河ドラマ出演」といった願いがずらり。そこに「禁煙成功」と書き加えたくなるのは私だけではないでしょう。成功の秘訣は才能か努力か運か、と議論は尽きませんが、少なくとも健康を損なう習慣を手放すことは大きな一歩です。学問も芸能も、体が資本。禁煙こそ人生成功の第一関門だと、神様がそっと背中を押してくれているように感じました。
谷中銀座
下町情緒で知られる谷中銀座を歩いてきました。JR日暮里駅から続く有名な「夕やけだんだん」の階段を下りると、全長およそ170メートルほどの商店街が広がります。総菜屋さんのコロッケを片手に食べ歩きできる、どこか懐かしくて温かい通りです。最近は海外ガイドブックにも載っているのか、外国人観光客の姿もとても多く、英語が飛び交う国際色豊かな商店街になっていました。
一方で、「谷中はどんどん様変わりしている」と感じさせる場面もありました。古くからの個人商店の隣におしゃれなカフェや雑貨店が並び、いわゆる“観光地化”が進んでいます。立ち寄ったカフェのご主人が、会計をしながら、ぽつりと「谷中は変わってしまった。シンボルのネコもいなくなってしまった」とつぶやいたのが印象的でした。かつては猫の街として知られ、あちこちで気ままな姿が見られたそうですが、最近はめっきり減ってしまったとのこと。人が増えすぎたのかもしれません。

そして極めつけは、空き地に設置されたテント型の喫煙所です。簡易的なテントのような構造ですが、煙はまったく閉じ込められておらず、周囲にしっかり拡散。その前を通った瞬間、最悪と言いたくなるほどの強烈な臭いが漂い、目がしみるほどでした。その一帯だけぽっかりと人がいないのが何よりの証拠です。にぎやかな商店街の中で、そこだけ“無人地帯”。煙の結界でも張られているかのようでした。
情緒と国際化、再開発とノスタルジーが入り混じる谷中銀座。変化は街の宿命とはいえ、せめて煙のない空気の中で、猫の気配を感じながらそぞろ歩きできる商店街であってほしいと願わずにはいられませんでした。
