筆者を含め18名で組成したプロジェクトチームによる調査結果が、日本禁煙推進医師歯科医師連盟通信第30巻第1号(2021年5月発行)に掲載されました。

その掲載内容について、関係者の了解を得て、以下のとおり掲載します。

また、Yahoo!ニュースで、共著者の石田雅彦さんが分かりやすく記事にしてくださいましたので、こちらも併せてご参照ください。

本調査結果に基づき禁煙化推進活動や行政内・組織内での調整をするために、全文が読みたい方や調査結果の生データが欲しい方は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

背景

2020年4月に改正健康増進法および東京都受動喫煙防止条例が全面施行され大部分の屋内が禁煙になったこと、その他地域の条例により、一定区域の路上が禁煙になったこと、さらにこれらと並行して喫煙所設置のための補助金制度が設置されたことから、以下を根拠に公衆喫煙所の設置を求める声が増加している。

  • 【議員】タバコ業界への忖度、与党税制改正大綱に基づくタバコ税の活用
  • 【喫煙者】喫煙する場所の確保
  • 【嫌煙者】分煙による路上喫煙の防止
  • 【行政】受動喫煙防止のための都などの補助金制度の活用

このような声に押され、東京都内では公衆喫煙所設置の動きが加速している。東京都では2020年度、約9億5,000万円の東京都からの補助金により区市町村において140か所の公衆喫煙所が建設される見込みである。また、三鷹駅北口に武蔵野市が設置したトレーラーハウス喫煙所をモデルケースとして、都内で千代田区、台東区、荒川区[i]、渋谷区[ii]、大田区[iii]に展開されており、区市町村の自民党議員が働きかけを行っている[iv]

この状況を放置すると、多額の税金を投じた公衆喫煙所設置が標準化され、全国に広がってしまう懸念がある。そのため、公衆喫煙所の新たな置増や公衆喫煙所そのものに対する社会的な容認の動きを阻止する必要があった。

[i] トレーラーハウスデベロップメント株式会社 , 2021年3月28日アクセス

[ii] 株式会社ランドピア , 2021年3月28日アクセス

[iii] 大田区議会議員 伊佐治剛氏のTwitter投稿 , 2021年3月28日アクセス

[iv] 調布市議会令和2年度第4回定例会議事録(鈴木むねたか議員), 2021年3月28日アクセス

目的

上述の喫煙所設置を求める声の前提は、以下の2点である。

  • 喫煙所がないから路上喫煙者が存在する
  • 喫煙所があれば路上喫煙がなくなる

しかし、喫煙所があってもその周りで喫煙する者やポイ捨てされた吸い殻を多く見かけることから、「路上喫煙への対策として、喫煙所は有効ではない」という仮説を立てた。そのため、当該仮説を検証することを目的として本調査を実施した。

方法

1.リソース

Facebookや禁煙化推進オンライン研究会のメーリングリスト[i]において協力者を募ったところ、本調査の目的に賛同する18人の協力者を得て、プロジェクトチームを結成した。

本調査に要した費用に関しては、ウェブサイト「禁煙化推進の手引[ii]」への寄付73,000円を活用した。

質問票調査を行うツールとして、ジャストシステム株式会社が提供するオンライン質問票調査システム「Fastask[iii]」を利用した。本調査の予算にあわせて、喫煙者のサンプルを得るためのスクリーニング調査(6,000人~6,600人分の回答収集)、続いて喫煙者のサンプルを対象とした本番調査(1,200人~1,320人分の回答収集)という2段階の形式で実施した。

[i] 禁煙化推進オンライン研究会 , 2021年3月28日アクセス

[ii] 禁煙化推進の手引 , 2021年3月28日アクセス

[iii] Fastask , 2021年3月28日アクセス

2.スクリーニング調査の選択基準

300万人以上の登録者[i]のうち、繁華街での喫煙状況を問うため、人口密度の高い都府県在住(東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県)の20歳代以上の男性に対し、以下表1の質問を2021年2月7日に発信した。限られた予算内で、より多くの喫煙者のサンプルを得るために、調査対象を女性よりも喫煙率の高い男性に限定することとした。

[i] Fastaskモニタ情報 , 2021年3月28日アクセス

表1. スクリーニング調査の質問票

あなたは現在、喫煙しますか。
※このアンケート調査において「喫煙」とは、メビウスやマルボロなどの紙巻きタバコを吸うこと、アイコス・プルームテック・グローなどの加熱式タバコやmyBlu・Juul・ビタフルなどの電子タバコを使用することを指します。
①はい  ②いいえ

年代に偏りが無いように、「20歳代」「30歳代」「40歳代」「50歳代」「60歳代以上」のそれぞれの年代ごとに1,320人ずつ、契約した計6,600人分の回答を2021年2月14日に回収した。なお、質問票調査システムの制約で、60歳代以降は「60歳代以降」と一括りになっていた。
上述の6,600人の回答のうち、「①はい」と回答した者2,164人のサンプル(以下、喫煙者グループ)を得て、本番調査の対象者とした。

3.本番調査

喫煙者グループの2,164人を対象に、表2の質問票調査を2021年2月21日に発信し、以下のとおり契約した1,321人分の回答を年代ごとに均一になるように回収設定を行い、同2月22日に回収を完了した。契約した回答収集数は上述のとおり1,320人分であったが1,320番目となる回答者が2人同時に回答したため1人多くなる誤差が生じた(20歳代から50歳代:各年齢層共264人、60歳代以上:265人)。

また、設問については「路上喫煙禁止区域上での喫煙」などの違法行為に関する経験や意向を問う設問がFastaskにより禁じられていることや喫煙者に本質問票調査の目的を察知され恣意的な回答がなされないようにするため、以下の内容とした(表2)。

表2. 本番調査の質問項目

Q1 喫煙したくても、喫煙所を利用したくないと思うことがありますか。 ① いつも思う

② 頻繁に思うことがある

③ ときどき思うことがある

④ 全く思わない

Q2 駅前など人通りの多いエリアで、喫煙所が設置されていても、喫煙所以外の路上等で喫煙したことが、過去5年間にありますか。最も近いものを以下から1つ選んでください。 ① 喫煙所以外で喫煙したことはこの5年間に1回もない

② 喫煙所以外で喫煙したことがある、もしくは喫煙したことがあるかもしれない

③ 喫煙所以外で喫煙したことが、かなりある

④ 該当しない(喫煙所が設置されている人通りの多いエリアに行ったことが無い)

Q3 公衆喫煙所がない区域において、路上喫煙に対して罰金(過料など)が常に徴収されるようになった場合、路上喫煙はどれくらい減ると思いますか。最も近いものを以下から1つ選んでください。 ① 9割減る~全くいなくなる

② 7割~8割減る

③ 4割~6割減る

④ 2割~3割減る

⑤ 変わらない~1割減る

⑥ わからない

なお、本研究は、愛知学院大学短期大学部倫理委員会(承認番号21-001)の承認を得た。

結果

1.Q1の回答

「喫煙したくても、喫煙所を利用したくないと思うことがありますか。」という設問に対し、1,321人の回答のうち、「いつも思う」が283人(21.4%)、「頻繁に思うことがある」が225人(17.0%)、「ときどき思うことがある」が372人(28.2%)、「全く思わない」が441人(33.4%)であった(図1)。

2.Q2の回答

「駅前など人通りの多いエリアで、喫煙所が設置されていても、喫煙所以外の路上等で喫煙したことが、過去5年間にありますか。最も近いものを以下から1つ選んでください。」という設問に対し、1,321人の回答のうち、「喫煙所以外で喫煙したことはこの5年間に1回もない」が375人(28.4%)、「喫煙所以外で喫煙したことがある、もしくは喫煙したことがあるかもしれない」が483人(36.6%)、「喫煙所以外で喫煙したことが、かなりある」が259人(19.6%)、「該当しない(喫煙所が設置されている人通りの多いエリアに行ったことが無い)」が204人(15.4%)であった。

また、「該当しない(喫煙所が設置されている人通りの多いエリアに行ったことが無い)」を除いた1,117人の回答者の割合としては、「喫煙所以外で喫煙したことはこの5年間に1回もない」が33.6%、「喫煙所以外で喫煙したことがある、もしくは喫煙したことがあるかもしれない」が43.2%、「喫煙所以外で喫煙したことが、かなりある」が23.2%であった(図2)。

3.Q3の回答

「公衆喫煙所がない区域において、路上喫煙に対して罰金(過料など)が常に徴収されるようになった場合、路上喫煙はどれくらい減ると思いますか。最も近いものを以下から1つ選んでください。」という設問に対し、1,321人の回答のうち、「9割減る~全くいなくなる」が220人(16.7%)、「7割~8割減る」が370人(28.0%)、「4割~6割減る」が287人(21.7%)、「2割~3割減る」が135人(10.2%)、「変わらない~1割減る」が148人(11.2%)、「わからない」が161人(12.2%)であった。

また、「わからない」を除いた1,160人の回答者の割合としては、「9割減る~全くいなくなる」が19.0%、「7割~8割減る」が31.9%、「4割~6割減る」が24.7%、「2割~3割減る」が11.6%、「変わらない~1割減る」が12.8%であった(図3)。

考察

1.Q1について

「喫煙したくても、喫煙所を利用したくないと思うことがありますか。」という設問に対し、「喫煙所を利用したくない」と思うことがある喫煙者が全体の66.2%に上り、喫煙者であっても、喫煙所を利用したくないと思う者が多いことが判明した。さらに、本調査結果により、喫煙所に入らずにその周辺で喫煙する者が多いことがわかり、それによってポイ捨てや受動喫煙につながっていることが示唆された。

2.Q2について

「駅前など人通りの多いエリアで、喫煙所が設置されていても、喫煙所以外の路上等で喫煙したことが、過去5年間にありますか。」という設問への回答から、「該当しない」と回答した者を除いた、駅前などの人通りの多い喫煙所が設置されたエリアで、過去5年間に一度も喫煙したことがない者は、全体の1/3程度しかいなかった。すなわち、残りの2/3は、喫煙所以外でも吸うことがあり、喫煙所を設置したとしても、喫煙所以外で喫煙する者が多いため、多額の税金を投じた公衆喫煙所設置の有効性が低いことが示唆された。

3.Q3について

「公衆喫煙所がない区域において、路上喫煙に対して罰金(過料など)が常に徴収されるようになった場合、路上喫煙はどれくらい減ると思いますか。」という設問への回答について、喫煙者全体の傾向の算定方法として、各設問の中央値と「わからない」を除いた回答者の割合による加重平均を算出したところ、約57.9%となった(表3)。この57.9%を喫煙者が平均して想定する路上喫煙の罰則適用による減少効果と考えると、Q2において「過去5年間1度も喫煙所以外で喫煙したことがない」と回答した者の割合33.6%と比べて24.3%大きいため、路上喫煙の罰則適用の方がより有効である可能性が強く示唆された。

表3. 各設問の中央値と「わからない」を除いた回答者の割合による加重平均

4.まとめ

本調査結果から、路上喫煙を減少させる目的で公衆喫煙所を設置することは、以下のとおり有効性が乏しいことが示唆された。

  • 「喫煙所を利用したくない」と思うことがある喫煙者が全体の2/3に上ること
  • 「過去5年間1度も喫煙所以外で喫煙したことがない」と回答した喫煙者が「該当しない」と回答した者を除き全体の1/3しかいないこと
  • 喫煙者が想定する罰則適用による減少割合の加重平均の方が 「過去5年間1度も喫煙所以外で喫煙したことがない」と回答した者の割合よりも多いこと

謝辞

「禁煙化推進の手引」へ寄付いただいた方々のご厚意により本調査を実現することができた。また、本研究にご協力いただきながら、共著者に加えられなかった3名の方々、本調査に協力いただいた方々に厚く感謝申し上げる。

本結果については、ウェブサイト「禁煙化推進の手引」にも一部掲載するほか、PDFや生データなどの提供も可能であるため、皆様の公衆喫煙所の設置阻止・撤去に有効に役立てていただくことを願う。