請願・陳情の定義や制度は、自治体ごとに定められていますが、おおむね以下のとおりです。

  • 請願:議会に要望して意思決定を求める。ただし議員ひとり以上の紹介が必要。
  • 陳情:議会に要望して意思決定を求める。議員の紹介は不要。

なお、自治体によっては市民からの陳情は審議されずに回覧で終わってしまう場合もあるようです。

「禁煙化推進の要望として、請願・陳情が有効か」という点で申し上げると、筆者は有効ではないと考えます。むしろ逆効果になる可能性が高いです。

安易に請願・陳情はすべきではありません。まずは「要望書」から入るべきだと思います。

別途「禁煙化推進の進め方」で述べている陳情の戦術以外は、やめたほうがよいと思います。

有効でないと考える理由

請願・陳情は有効でないと筆者が考える理由は以下のとおりです。

不採択になると逆効果

請願・陳情が不採択になった場合、市民から選ばれた議員で構成する議会として、「その施策は行わない」と意思決定したことになります。

この意思決定には行政サイドも拘束されます。

たとえば、「受動喫煙防止条例の制定を求める陳情」が不採択になった場合、「受動喫煙防止条例は制定しない」と意思決定したことになります。

要望書であれば、多くの場合は「ご意見として承ります」といったようなあいまいな返事が来ますが、「いつか行うかもしれない」という含みもあります。

しかし不採択になった場合、受動喫煙防止条例制定の可能性を陳情によって潰してしまったことになります。

もし、健康推進課のような部署が粛々と進めていた計画があった場合や、医師会等が行政と連携しながら禁煙化を進めていた場合、それらの芽をつぶしかねません。

 

敵側も対抗措置をとってくる

たとえば、「受動喫煙防止条例の制定を求める陳情」を派手に喧伝しながら実施すると、敵側(タバコ産業やタバコ販売者サイド)が「受動喫煙防止条例制定を求めない陳情」を対抗措置として出してきます。

敵側のほうが「(生活と金のために)本気で行動する」ため、組織力は高く、議員への根回しも巧みです。

多くの自治体で「受動喫煙防止条例の制定を求める陳情」が不採択になり、「受動喫煙防止条例制定を求めない陳情」が採択になるという不幸に見舞われています。

 

一度不採択になると、ひっくり返すのは至難の業

コロコロと方針が変わったら混乱をきたすため組織は一貫性をもった意思決定をしなければなりません。

ひとたび請願・陳情が「不採択」になると、「じゃあ同じ請願/陳情をもう1回だそう」というわけにはいきません。

前回の意思決定を覆すだけの理由、社会的情勢の変化、議会の議員構成の変化等がなければ難しいです。

すでに意思決定された同一内容の請願・陳情は受け付けない自治体もあるようです。

したがって、請願・陳情は一発勝負。安易に出すものではありません。

 

不採択になった場合は、その方針に沿って行政も動く

禁煙化推進に関する請願・陳情が不採択になった場合は、禁煙化推進に関する施策は講じない、という方針の下で行政も運営されます。

したがって不採択になると、禁煙化が後退するおそれすらあります。

 

実現可能性のないものは、よくて趣旨採択、悪くて不採択

請願・陳情は、おおよそ「施政方針レベルの内容」か「意思決定次第でクイックに対応可能なもの」が採択される傾向があります。

施設の敷地内禁煙化のように、禁煙化を進めたい人の中でも両論(受動喫煙防止の観点で喫煙所を作ったほうがはいいのでは等)あるようなものであったり、受動喫煙防止条例制定のように、全庁をあげて数か月検討しないといけないようなものは、なかなか採択されにくいです。

 

請願・陳情に必要なこと

禁煙化に関する要望関連で、請願・陳情が採択されるためには、以下が必要です。

  1. 実現したい内容が、行政サイドにおいてヒトモノカネを確保し着実に運用できる見込みがあること
  2. 議員(与党会派)が賛成する見込みがあること

もし、医師会等が請願・陳情を行う場合は、上記を満たすために、行政とのしっかりとした意見交換、そして議員とも入念な調整が必要です。

お勧めなのは、「医師会を巻き込んだ戦略◎」で記載した陳情の出し方です。ここでは全会一致で採択された陳情のケースについても触れています。

なお、陳情ではなく請願する場合は、どの議員を通じて請願するかも成否を分けます。

中身に関わらず、

「この議員/この会派のいうことはすべて否定してやる!」

という与党会派もあります。

請願は紹介議員の色がついてしまうため、与党会派の力のある議員でない限りはお勧めできません。

そして与党会派はたいていの場合タバコ販売組合等が支持母体なので、期待できません。

よって、請願自体、あまりお勧めできません。