受動喫煙対策を求める場合の基本的な考え方について、述べます。

【要望する前に】最初に考えること

なにを実現したいのか、目標設定をすることが重要です。

  • 理想としては、どうなってほしいのか。
  • 妥協点としては、どうなってほしいのか。

たとえば、理想としては敷地内禁煙を実現してほしいが、妥協点としては、喫煙所を動線から遠い●●まで移設してくれれば許容可能、などです。

なお、この理想を検討する際、「喫煙者をとっちめたい」という目標を持つことは生産的ではありませんし、喫煙者と非喫煙者を争わせようとするタバコ産業の思うつぼです。

ここでは、あくまで受動喫煙対策を求める要望のための考え方を述べていきます。

【ポイント1】大声を出さない

受動喫煙で非常に辛い思いをしてきただけに、担当者に要望した際にその場で否定されると、つい感情的になってしまうことがあります。

しかしながら、感情的になったが最後、「禁煙化」という目標を達成することができなくなってしまいます。

以下を心がけ、たんたんと冷静に要望することが必要です。

  • 大声を出さない。
  • 脅迫しない。
  • 応対者の人格を否定しない。

また、文書・メールの場合は、書いているうちに色々な感情がこみあげてきて、攻撃的な内容になりがちです。その日のうちに発信せず、一晩寝かせて、翌朝に内容を見直したうえで発信することをお勧めします。

あたりまえのことのようですが、職場・近隣ベランダ等の受動喫煙相談をなさる方の多くが、初期の段階で感情的になってこじれています。

【ポイント2】応対者を良い協力者だと思い込む

応対者(要望をした相手方)に、要望内容を理解していただき、権限のある人に禁煙化を働きかけてもらうには、「受動喫煙被害をもたらす環境を作り出している敵」ではなく、「自らの良い協力者」と思い込んで接する必要があります。

親友や、職場の上司に対してお願いごとをするつもりで、まず「褒める」「感謝の意を伝える」ことが大事です。

そのうえで、要望を実現いただくことがWin-Winとなることを丁寧に説明しましょう。

自分の健康被害防止だけではなく、いかに応対者や施設の利益につながるかを説明する必要があります。

【ポイント3】応対者が意思決定者へ説得できる材料を示す

禁煙化を要望し、応対した担当者レベルに納得して頂けたとしても、その応対者が上司を説得できなければなりません。

禁煙化の意思決定ができる上司を説得できるように、材料を提示する必要があります。

その上司が意思決定にあたって何を重んじるか、可能な限り確認しておきましょう。

  1. 誰が言ったか
    • 「この人」「この組織」から援護射撃してもらえば確実、という人・組織へ根回しする戦術がとれます。
  2. ヒトモノカネの投資要否
    • 分煙はコストがかかりますが、禁煙化はコストがかからないことを説明できます。
  3. 生産性/収益性への影響
    • 民間企業や飲食店等の場合、「収益>顧客・従業員の健康」です。
      従業員を酷使して過労死させても咎められない日本の経営者には、「顧客・従業員の健康」の観点で説明しても全く響きません。
      禁煙化が生産性向上や収益につながることを説明していく必要があります。
  4. コンプライアンス
    • タバコ規制枠組み条約、健康増進法、条例、その他社会的情勢を踏まえた説明をすることができます。

上記説明にあたっては、根拠法令やデータを示せると、より万全です。

「私に健康被害が生じる」は、自分にとって最も重要ですが、要望を受ける側にとっては優先順位は非常に低いのです。相手の立場に立って考えることが重要です。

【ポイント4】回答期限を設定、ただし即時回答を求めない

回答を求めなければ「ご意見として承ります」で担当者レベルが受け止めただけで改善に至らず終了してしまいます。

逆に、回答が得られる場合、所定の責任者の確認を経て回答することになるため、責任者レベルまで要望が吸いあがることになり、より俯瞰した立場で要望実現の可否を判断してもらえます。

一方、回答を求めたとしても、回答期限が設定されていなければ、そのまま回答が来ることがありません。

回答期限を設定することで、回答を求める明確な意思を示すことができます。

ここで、回答期限の設定は、3~4週間後が望ましいです。

受け付けた要望を精査し、環境を変える判断を行うには時間がかかります。たとえば以下のとおりです。

  1. 担当者レベルで検討
  2. 担当者の上司が承認
  3. 主管部署の担当者が検討
  4. 主管部署の担当者の上司が承認
  5. 回答文案の作成
  6. 回答文案の担当者の上司の承認
  7. 回答文案の主管部署の担当者の上司の承認

これを、無理に「明日までに!」とか「今週中に!」とすると、できない相談になるため、担当者レベルで「無理です」と拒否されてしまうことになります。

【ポイント5】具体的に要望する

要望を受ける側にとって、最も困るのは「何が言いたいのかわからない」です。

要望は、シンプルかつ具体的に伝えましょう。

  1. 現状
  2. あるべき姿
  3. 現状とあるべき姿のギャップにより生じる不利益/あるべき姿に近づけることで得られる利益
  4. 具体的に実施してほしい施策

  1. 受動喫煙対策が遅れていてけしからん
    ⇒●●にある喫煙所を撤去して欲しい
  2. 喫煙場所を移動してほしい
    ⇒●●にある喫煙所を●●の場所へ移動してほしい

【ポイント6】改善権限のあるところに要望する

たとえば、大学の敷地内禁煙化を、市の教育委員会へ要望しても、大学は市の教育委員会の管轄外なので意味がありません。

県道(県が管理する道路)上に設置された喫煙所を、市の道路管理部署に要望しても同様に要望の宛先が異なるため意味がありません。(とても親切な担当者であれば県に連携してくれますが、間接的になるため実現可能性が低くなります)

禁煙にしたい場所を、どこが管理しているのか、を確認することが大事です。

自治体への要望の場合

路上や公園などの屋外の受動喫煙対策を要望すると、タバコ産業と蜜月の関係にある環境系の部署(環境●●課などという組織名称)に回され、門前払いにされます。

保健所や健康〇〇課などの健康を所管する組織に回答依頼するとよいでしょう。

民間企業への要望の場合

アルバイトやパートに要望しても何の権限も持たないので、まずは正社員に直接伝えられるようにしましょう。

また、道路工事業者など自治体からの委託先事業者や、建設業者の場合は、委託元・発注者に要望すると対応が早いです。

【ポイント7】要望書は正しい日本語、形式で

書面やメールで要望する際は、正しい日本語、形式で記載するようにしましょう。

たとえば、一度Microsoft Wordで記載し、スペルチェックの機能を使って校正をすると簡易な誤字脱字を見つけることができます。

季節のあいさつ文なども、Microsoft Wordで挿入できる機能がありますので活用しましょう。

某団体がホームページで厚生労働省への要望書を公開していますが、「日頃は厚生労働行政にお忙しいこととお喜び申し上げます」と冒頭に記載されています。この文章だけでも要望書を受け付けた担当者は読む気をなくしてしまいます。

「まともな人・組織からの、きちんとした要望」であることを示す意味でも、正しい日本語は必須要件です。

【ポイント8】複数人から要望

1人からの要望だけでは、なかなか動きませんが、複数人から要望があると成功率が高くなります。

実際に、ある「不完全分煙」のファミリーレストランへ、完全禁煙にするように時間差で1人ずつ要望を繰り返していった結果、1人目では何も改善はされませんでしたが、4人目の要望で「まずは土日祝日の完全禁煙」と改善がなされました。

たとえば病院や企業の受付の人について、「受付の態度が悪かった」という苦情が入ったとしましょう。

それが1人だけだったら、そこまで気にもとめないと思います。

2人から同じ苦情があったら、「何かトラブルがあったのかな?」と思うでしょう。

その後3人目から同じ苦情があったら、「受付の対応に何か問題があるのではないか」と事実確認に乗り出し、改善に向けた検討をするでしょう。

このように、複数人から要望することは非常に効果的です。

残念ながら、SNSや禁煙団体等で、受動喫煙について愚痴を延々と吐いている方は山ほどいるのですが、社会を変えるために複数人からの要望を呼び掛けても協力してくれる人が殆どいないのが実情です。照準を定めて、組織的に要望すれば1つ1つ解決していくのです。

お勧め書籍

隣人のベランダ喫煙や職場での受動喫煙への対処に応用できる、筆者が最もお勧めする書籍です。

身近な受動喫煙に関する対処にあたっては、必ず読むべき書籍です。