TS式企業タバコ対策チェックリストver.4.0解説 2023/11/12リンク切れを修正して改訂
企業におけるタバコ対策(従業員の禁煙支援や受動喫煙対策)について、10のドメイン(領域)でチェックリスト形式でタバコ対策の成熟度を評価できる仕組みを作りました。(作った人はこちら)
⇒【無料】TS式企業等タバコ対策成熟度評価チェックリストver.4.0
下記では、上記チェックリストの各項目に関する解説を述べています。
ISOのPDCAのフレームワーク等と併せて活用いただけると、継続的改善が図れるようになると思います。
これらの使用許諾、助言依頼、当ページの転載、おすすめ研修会講師の紹介依頼、関連する事業の広告・リンクの依頼等は、問い合わせフォームからご連絡ください。
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目次
- 推進態勢
- 分析・モニタリング
- 喫煙・受動喫煙環境
- 喫煙制限のルール
- 人事管理
- 教育・啓発
- 禁煙支援
- タバコ対策に関する外部関係者との関り
- 取引先等管理
- 法令等遵守
- その他、チェックリストの対象ではないが、できそうなこと
1.推進態勢
1-1.組織のトップは非喫煙者ですか
組織のトップや管理監督者が喫煙者だと、喫煙対策に甘くなるという沖縄県の調査結果があります。
企業がタバコ対策に取り組み、より高い効果を出すためにはトップが禁煙し非喫煙者である必要があります。
トップが喫煙者でも進めることはできますが、ボトムアップで限界が生じることになり成熟度は低くなります。
また、トップに近い実力者から禁煙を始めると、社内で禁煙にチャレンジする風が強くなります。
1-2.タバコ対策に関する組織の方針や目標は経営陣の関与のもと策定し公表されていますか
タバコ対策が、人事や健康経営担当者による属人的な取り組みのままだと、全社的な変革にはなりません。
喫煙者にとって耳が痛いと感じるからこそ、会社としての強い意思表示が必要になります。
特に無関心期の喫煙者を禁煙に向かわせるためには、会社として喫煙者に禁煙を求めているという、強いメッセージが必要になります。
【対策例】塩野義製薬(絶煙宣言)
1-3.タバコ対策のための推進計画が策定され、必要な経営資源(予算等)が割り当てられていますか
業務の片手間でタバコ対策を実施しても思うように効果は出ません。1-2で目標を定め、目標を達成するために必要な経営資源(ヒトモノカネ)を見積もり、予算化する必要があります。
すでに健康経営というカテゴリで予算化していてもタバコ対策に使われていない場合は活かすことができません。
【予算化の例】
- 研修の講師代
- 外部コンサルタントの起用
- タバコ産業などの分煙コンサルタントは起用しないこと!
- 禁煙推進企業コンソーシアム、その他禁煙関連のコミュニティの法人会費
- タバコ対策担当者のトレーニング費用(外部研修費、諸会費)※6-6に関連
- 喫煙所の撤去費用(喫煙所の設置費用は逆行するので絶対に予算化しないこと!)
- 禁煙治療の補助
- オンライン禁煙診療や禁煙治療アプリの契約
- 各種啓発媒体の作成、配布
- 各種啓発グッズの作成、配布
- 非喫煙者手当、禁煙成功時の褒賞等
まずは、研修の講師代から予算化してはいかがでしょうか。
1-4.タバコ対策を担当する担当者、および責任者は任命されていますか
業務の片手間でタバコ対策を実施しても思うように効果は出ません。1-2で目標を定め、目標を達成するために必要な資源(ヒトモノカネ)を見積もり、専任でなくてもよいので、タバコ対策の推進に責任を持つ担当者と責任者を置き、自らの業務目標に組み込む必要があります。
また、旗振り役であるタバコ対策に関する責任者は、課長レベルではなく、組織において役職が高ければ高いほど良いでしょう。
1-5.タバコ対策について、衛生委員会等で年1回以上取り上げていますか。衛生委員会等が無い場合は、人事責任者を含め年1回以上タバコ対策を含め協議する会議体はありますか。
健康経営推進委員会や衛生委員会のような会議体を指します。
衛生委員会等は一定規模の企業であれば設置されていますが、タバコ対策についても議事に含める必要があります。
タバコ対策は、人事、産業医、健保組合担当者だけではなく、設備を司る管財・総務部門など他部門の協力も必要になります。
禁煙化が直接営業面で影響を与えそうな場合には営業部門の協力も必要になるでしょう。
そうしたステークホルダーをメンバーとして巻き込んでおくと、社内の禁煙化が進めやすくなります。
安全衛生委員会でもよいですが、事業所ごとというよりは、会社全体で施策の検討実施に必要な関係部署の人が参画していることがさらに望ましいです。
1-6.タバコ対策に関する方針、目標、組織の推進計画や取組み状況等について、定期的(少なくとも年1回以上)に経営陣に報告し、見直す機会を設けていますか
タバコ対策は1度実施しておしまいではなく、PDCAで継続的改善を図っていく必要があります。
タバコ対策を実施した結果、従業員の声、取引先・顧客や株主の声、社会的情勢や法令等の変化を踏まえて、経営陣に報告したうえでタバコ対策の方針、目標、取組み等について見直す必要があります。
また、苦情や意見は一元管理して分析できるようにしておき、経営陣への報告に含めておくと、さらなる禁煙化推進の材料になったり、効果を可視化しやすくなります。
2.分析・モニタリング
タバコ対策の実施に当たっては、現状把握と、効果測定が重要です。そのためには、以下の観点での分析・モニタリングが必要になります。
2-1.役職員の喫煙率を定期的(少なくとも年1回以上)に確認していますか
法定健診等でも一定年齢以上の喫煙率の測定は可能なので、手始めに法定健診から着手しつつ、成熟度が上がってきたらアンケート等で毎年収拾するとより高い精度で測定が可能になります。
また、単純に「喫煙習慣がありますか」という設問だと、IQOS等の加熱式タバコを使う者は「喫煙している」という認識が無いため、「アイコスなどの加熱式タバコも含む」と注釈を入れるなど、設問にも工夫が必要になります。
2-2.役職員の喫煙による労働生産性(残業時間、事務ミス、品質、喫煙者と非喫煙者のパフォーマンスの違い等)や医療費等への影響を測定・分析していますか
コロナ禍によりテレワークが浸透し、以前と就業環境が変わっているため前後の比較がしにくいですが、企業におけるタバコ対策の直接の効果を可視化するためには、このような測定・分析が必要になります。
喫煙できる休憩時間を制限したことで、残業時間を17%削減できたという企業もあります。
また、医療費については各種禁煙対策の経済影響に関する研究-医療費分析と費用効果分析-が参考になります。
2-3.設置している喫煙所の維持管理に関するコストを把握していますか
厚生労働省基準に適合する喫煙所を設置するためのコストだけではなく、維持管理(清掃、空調の電気代、空調のメンテナンス等)のコストや、本来その喫煙所を他の用途で使用すれば得られたはずの機会の損失も考慮する必要があります。
2-4.役職員に対するタバコに関する意識調査を定期的(少なくとも年1回以上)行っていますか
喫煙に関する意識について、加濃式社会的ニコチン依存度質問票がお勧めです。
このチェックリストでの点数を経年変化で追っていくと従業員のタバコに関する意識を喫煙者・非喫煙者ともに可視化できます。
3.喫煙・受動喫煙環境
3-1.事業所は禁煙ですか
敷地内完全禁煙であることが最良です。
それがどうしても無理であれば、少なくとも屋内完全禁煙は達成したいです。
喫煙所はCOVID-19対策としてもNGです。
また、オフィスビル等にテナントとして入居している場合は、喫煙所や他のテナントからタバコの煙が流れ込んでいないか留意が必要です。テナントとして入っているビルの喫煙所の使用を禁ずることも次善の策として検討しましょう。
3-2.社用車は禁煙ですか
意外と見落としがちなので、きちんとルール化しましょう。
3-3.自組織が手掛けるイベント等の会場や店舗等は裁量の及ぶ限り禁煙としていますか
事業所内が禁煙であっても、イベント等で喫煙所を設置し近隣住民から苦情を受けたり企業イメージが下がったりするケースがあります。
3-4.事業所内でタバコの販売を行っていますか
売店で売るのを止めるところがスタート地点です。
3-5.社宅は禁煙になっていますか
社宅内での喫煙は火事の危険や、壁にヤニが付着するなど物件の価値も毀損します。
また、ベランダでの喫煙も、災害時の避難経路になることやベランダからのポイ捨てによる火災の原因になること、そして近隣への受動喫煙による従業員同士のトラブルの原因になるため、禁煙とすべきです。
4.喫煙制限のルール
4-1.勤務時間中の喫煙を制限をしていますか
以下のように段階的に進めていくとよいでしょう。なお、外出時やテレワーク時も含めることを徹底する必要があります。
- 時間制限
- 就業時間中禁煙
- 休憩時間を含め就業時間中禁煙
労災時間内禁煙(自宅からの通勤中も含め喫煙禁止)としている企業もあります。
2021年1月には、イオンが就業時間中の喫煙禁止・敷地内禁煙と併せて、出勤45分前からの喫煙禁止というルールを整備し、話題となりました。
休憩時間や通勤中まで喫煙を禁じることが法的に可能か、という点ではこちらに詳しい解説があり、不可というわけではないので実施している企業が実際に存在します。
4-2.事業所周辺での喫煙を禁じていますか
自社内を禁煙にすると、従業員が周辺の路上や周辺施設の喫煙所で喫煙するようになります。
社員証を首からぶら下げたまま喫煙することで、近隣住民等からの苦情が入るようになり風評リスクや、喫煙所での会話による機密情報の漏えいも懸念されます。
敷地内禁煙にする場合は、事業所周辺での喫煙も禁じることもセットにする必要があります。
4-3.喫煙後一定時間の行動制限を規定したルールはありますか(エレベータの使用禁止、接客の禁止等)
三次喫煙(サードハンドスモーク。残留受動喫煙ともいう)による、従業員や顧客等の健康被害を防ぐためのルール。
奈良県生駒市役所が喫煙後45分間はエレベーター使用禁止ルールを打ち出したのを皮切りに、メニコンでは来社1時間前の喫煙禁止、京都府の洛星高校では「喫煙後45分以内に授業がある場合、教師は喫煙することは禁止」というルールができました。
健康被害防止だけでなく、タバコが苦手な顧客に対する営業機会損失や苦情を防止する効果もあります。
4-4.宴席や事業所外における職員同士の食事の場等を禁煙とするルールはありますか
事業所内が禁煙になっても、歓送迎会や忘年会、新年会、その他取引先接待等の懇親会において、喫煙可の店舗でタバコ吸い放題では意味がありません。
また、外回り中の食事において上司が喫煙すると部下が嫌とは言えず、ハラスメントに繋がります。
そこで、宴席や社外での職員同士での食事の場を禁煙とするルールが必要になります。
宴席禁煙を定めている金融機関もあります。
4-5.加熱式タバコ、その他の電子タバコも、紙巻きタバコと同じ扱いにしていますか
加熱式タバコを使用している喫煙者は、紙巻きタバコに対する規制逃れをすることも目的の1つとして加熱式タバコを使用している場合もあり、会社として喫煙制限ルールを周知しても、加熱式タバコは対象外と勝手に思い込む傾向があります。
そのため、IQOS、プルームテック、グローなどの加熱式タバコも紙巻きタバコと同様に規制される旨を、明記する必要があります。
また、加熱式タバコ、電子タバコを会社の電源を用いて充電してはならないこともはっきり明文化しておく必要があります。(けっこうやっています)
5.人事管理
5-1.受動喫煙を強いることが、ハラスメントの一種として位置付けられていますか
2020年6月に施行した改正労働施策総合推進法等によるハラスメントの防止施策に、受動喫煙を強いる「スモークハラスメント」を入れ、同僚や取引先等に対し、優越的地位を背景として受動喫煙を強いるようなことがないように、セクハラやアルハラと同じ扱いとする必要があります。
ハラスメント防止策を所管する部署との連携が必要になります。
5-2.喫煙制限のルールに反した場合、就業規則に基づく罰則適用や人事考課への反映などのペナルティが課されますか
社内規定を策定しても、違反者に対するペナルティが課されなければ実効性が担保されません。
特に、喫煙はニコチン依存によるものであり、かなり強い抑止力が無いとルールが順守されません。
不正防止の観点だと、多額の借金を抱えた社員が会社の金に手を付けることを思いとどまらせるくらいの、抑止力が必要です。
そのため、ペナルティを適切に設定し、かつ、違反者には確実に適用していく必要があります。
5-3.採用時に、非喫煙者であることを条件としていますか
喫煙者を禁煙させるのは難しいため、採用の条件を非喫煙者とすることが長期的に社内の喫煙率を確実に下げることにつながります。
多くの企業が、以下を理由として非喫煙者であることを採用条件としています。
- 労働者の作業効率
- タバコの臭いが染み付いている労働者は接客相手や他従業員の気分を害する
- 施設の利用効率の低下(喫煙スペースの節約)・資産の劣化
- 喫煙者労働者の離席による非喫煙労働者の負担増(電話対応その他)
- 非喫煙者からの喫煙者に対する不公平感
- ニコチン依存症という病気であり業務に耐えうる健康体ではない
5-4.喫煙者であることを人事考課でマイナスとしたり、昇進昇格の際に非喫煙者であることを条件としたりしていますか
以下のために、人事考課や昇進等の評価の要素とすると、昇進願望のある喫煙者は禁煙し、さらに生産性を向上してくれることが期待できます。
- 喫煙者の禁煙を促す最良の動機づけとして
- 喫煙者に地位があるとパワーハラスメント(スモークハラスメント)の温床となる
- 喫煙者はタバコ対策に反対するため、組織としての喫煙対策が浸透せず遅滞する
6.教育・啓発
「勉強会の開催」で述べている通り、タバコ対策の最初の一歩は研修会です。下記に記載のとおり、経営陣、人事担当者、健保組合担当者での研修会をまずは強くお勧めします。
また講師選定にあたっては、医師でなくともよければ筆者も対応できますし、医師等である必要がある場合はお勧めの講師を紹介することも可能です。
6-1.職員に対する啓発・教育を定期的に実施していますか
喫煙者に対する教育だけではなく、非喫煙者に対しても、「喫煙を肯定する、擁護する」意識を変えさせるために啓発が必要です。
特に、以下については一般的に認識が十分ではないので、十分な啓発が必要です。
- 化学物質過敏症等の患者の存在の周知啓発
わずかなタバコのにおいだけでも激しい症状を引き起こす人が約1%いること、ダイバーシティの観点で彼らが健全に勤務できる環境を整備することが必要であることを周知する - 空間分煙、時間帯分煙、加熱式タバコは受動喫煙防止には無効であることの周知啓発
6-2.職員に対するものとは別に、経営陣に対しタバコ対策に関する勉強会やレクチャーを定期的に実施していますか
タバコ対策は喫煙者による抵抗が強く、ボトムアップでは成しえないため、経営陣によるトップダウンが必要です。
そのためには、まず経営陣にタバコ対策の重要性と正しい知識を理解いただくことが重要です。
ここでは、従業員の健康よりも、「生産性」を強調したほうが受け入れられやすいです。
また、SDGsに取り組んでいる企業においては、SDGsの3-a「すべての国々で適切に、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を強化する。」に基づき、施策の一貫性を強調すると受け入れられやすいです。
6-3.職員に対するものとは別に、タバコ対策を所管する部署(人事・総務等)や、衛生委員会等のタバコ対策について話し合う会議体、および健保組合において、タバコ対策に関する勉強会を定期的に実施していますか
まずは、足元から。
同僚や上司がタバコ問題の本質を理解していなければ先には進みません。
このような場で研修会を行うことによって、全社的なタバコ対策の推進を促進し効率的に進めることができるようになります。
筆者も衛生委員会において講演したところ、一気にタバコ対策が進みました。
また、健保組合といえど、タバコ問題の本質についてきちんと理解している人はあまり多くありません。協働すべき健保組合に正しい知識を得ていただき、同じ視点でタバコ対策を推進していくためには、健保組合に対する啓発・教育を実施する必要があります。
6-4.タバコ対策担当、産業医、保健師等に、禁煙支援や禁煙化推進等に係るトレーニング・研修を定期的(少なくとも年に1回以上)に受講させていますか
以下のような機会があります。
- 禁煙化推進オンライン研究会
- 動機づけ面接法研修
- 日本禁煙推進医師歯科医師連盟が会員向けに禁煙支援者のために提供しているEラーニングプログラム「J-STOP」
- その他全国各地で行われている禁煙化推進関連のセミナー(日本禁煙学会のページなどに紹介あり)
6-5.毎月22日(スワンスワンの日)など、定期的または必要に応じて禁煙のきっかけになる日の呼びかけ・啓発を行っていますか
- 22(スワンスワン)の日の呼びかけ。定期的に行うことで、禁煙開始のきっかけを作り出すため。禁煙推進学術ネットワークが提唱。
- 少なくとも、毎年5月末のWorld No Tobacco Day(世界禁煙デー)や、毎年11月第3水曜日の世界COPDデーにあわせた呼びかけはしていきたいです。
- 呼びかけや啓発にあたっては、以下のような資材が役立ちます。
- 啓発ポスター
- リーフレット
- 禁煙マークをかたどったマグネット、マウスパッド、うちわなど。
- 事業所近辺の禁煙外来MAPを作成
※禁煙飲食店MAPと同じ要領で作成できます
7.禁煙支援
7-1.禁煙に関する相談窓口を設置していますか
禁煙したくなった喫煙者が気軽に相談できる窓口を設置するとハードルが下がります。
窓口を設置するだけではなく、その気になった場合にすぐアクセスできるように、社内イントラネットの電話帳などに掲載しておくとよいでしょう。
7-2.禁煙治療・支援のプログラムを定期的(少なくとも年1回以上)または恒常的に実施していますか
禁煙外来の補助などのプログラムを定期的に行いましょう。(健康保険適用での禁煙外来は、一度失敗すると1年間使えなくなるため、その期間の考慮が必要です)
また、平日日中は忙しくてなかなか禁煙外来に行けない従業員も多いですが、オンライン禁煙診療や禁煙支援のアプリ等を導入すれば、時間と場所を選ばず、長時間待つ必要もなくなり禁煙治療・支援のハードルが低くなります。
7-3.非喫煙者への非喫煙手当や、禁煙に成功した元喫煙者への表彰等の、タバコを吸わないことへのポジティブな金銭的手当てを行っていますか
非喫煙者手当や、禁煙成功時の表彰の実施にあたり、喫煙者の虚偽申告・不正受給があった場合の取り扱いについて、賠償予定の禁止(労働基準法16条)や給料からの相殺禁止(同法24条)などの法律の定めに抵触しないよう留意が必要。
非喫煙者に対する有給休暇追加付与が株式会社ピアラにおいて制度化され話題になりました。
7-4.禁煙にチャレンジ中の者を他の役職員や家族等が支援する制度(禁煙サポーター等)はありますか
禁煙できた従業員による体験談の公表(ティーペック株式会社)などは、体験談のノウハウそのものだけでなく、「あの人が禁煙したならば自分も禁煙してみようかな」というきっかけづくりになります。特に、禁煙に挑戦中という紹介や体験談がトップに近い上位者だと、影響力が大きいです。
禁煙サポーター制度は身近な同僚にサポーターになってもらうことで動機づけをはかります。禁煙達成時の禁煙サポーターへの褒賞もセットだと、サポーターも熱心に活動します。
7-5.特定保健指導や産業医面談等の既存の枠組みの中で、禁煙を動機づけたり禁煙を支援する仕組みはありますか
産業医が形だけでなく、直接禁煙治療や支援にかかわっていると心強いです。そのようなことができる産業医を選任することも必要と考えます。
また、定期的に禁煙企図を喚起させる施策として、定期的に行われる特定保健指導や、ストレスチェックの面接で動機づけると効果的です。
8.タバコ対策に関する外部関係者との関り
8-1.タバコ対策に関する外部の専門家の助言や支援(有償・無償にかかわらず)を受けていますか
禁煙化推進や健康経営のコンサルタントや、タバコ対策の専門家等の独立した第三者の立場から助言等の支援を得ることは実効性のあるタバコ対策を推進していくうえで重要なINPUTとなります。
禁煙化推進オンライン研究会にも信頼おける専門家の会員がたくさん加入しているため相談してみるのもよいと思います。
首都圏における信頼できる禁煙化推進専門団体として、「禁煙、受動喫煙防止活動を推進する神奈川会議」や「ちょうふタバコ対策ネットワーク」があります。
こうした団体に、担当者が個人で会員となったり、あるいは法人会員としてかかわると、専門家から良い助言を得られます。
8-2.タバコ対策に尽力する団体等や自治体のタバコ対策の取組み等への支援を行っていますか
地元市役所の受動喫煙防止策や地域の禁煙化推進団体などへの支援や協働。
- 地元市役所については、公衆喫煙所の設置などへの支援をしないよう、また公衆喫煙所に支援したお金が使われないよう、注意が必要です。
- 関連会社や取引先、従業員の家族に対する禁煙教育や、禁煙に関するブースなどを自治体と協働で出展している企業もあります。
- 首都圏だと信頼できる禁煙化推進専門団体として、「禁煙、受動喫煙防止活動を推進する神奈川会議」や「ちょうふタバコ対策ネットワーク」があります。
- このウェブサイト「禁煙化推進の手引」や、当ウェブサイトが主宰する「禁煙化推進オンライン研究会」への支援・協働のお申し出もお待ちしています!
8-3.自組織が行うイベントや自組織が発行する広報媒体その他自組織の活動に対する、タバコ産業・販売関係者からの広告、寄付等をうけていますか
我が国も批准しているタバコ規制枠組み条約ではタバコ産業によるスポンサーシップを禁止しています。
タバコ産業から何らかの支援を受けてしまい、その支援に依存するようになると(タバコ産業からの支援が事業の前提になると)、タバコ産業の意に反した施策となる「企業のタバコ対策」ができなくなります。
タバコ産業からの申し出はきっぱり断るルールを整備することも、企業におけるタバコ対策において非常に重要な施策です。
逆に、タバコ産業がスポンサーとなっているイベントには協賛しないこともタバコ産業とかかわりを持たないうえで必要です。
8-4.タバコ産業への投資を行っているファンドまたはタバコ産業への投資は禁じていますか
投資ファンドや、金融関係の会社、その他企業として投資を行う場合においては、
ESG投資における「ネガティブ・スクリーニング」によりタバコ関連会社を投資先から除外している場合があります。
国内では、たとえばアフラック生命保険株式会社がタバコ関連会社を投資先から除外しています。(統合報告書P.48)
9.取引先等管理
9-1.協賛、後援等支援するイベントや共催するイベントに対し、会場に喫煙所を作らず敷地内禁煙にすること等のタバコ対策を求めていますか
このようなイベントが禁煙ではなく、喫煙所が作られるなどして受動喫煙が生じると、企業イメージが大幅にダウンする可能性があります。
9-2.喫煙者の来社を何らか制限していますか(喫煙後1時間以内は来社禁止など)
メニコンでは来社1時間前の喫煙禁止を呼び掛けています。
医療機関では、喫煙者の営業マンの来院を禁止しているところがあるようです(?)。
喫煙者の診療を断っているクリニックもあります。
9-3.取引先の選定にあたっては、喫煙に関する事項も加味されていますか
自社において徹底したタバコ対策を実施していても、委託先や代理店の要員が「業務中に喫煙する」「近くの路上で喫煙し自社へ苦情が来る」「商品がタバコ臭くなる」「顧客の応対でタバコ臭いと苦情が来る」など、喫煙に関する問題が生じやすいです。
また、喫煙者の方が事務ミス、労災事故、傷病等が発生しやすくなるため、ミスや停止が許されない委託業務に喫煙者を就かせることは事業継続上のリスクがあります。
そのため、以下のとおり委託業務に極力喫煙者を就かせない対応が必要です。
- RFPにおける要件に、従事する委託先要員が非喫煙者であることを含める
- 取引先選定の際に、喫煙率を指標の1つとする
- 広告塔やイベントのMC・ゲストに喫煙者を採用しない
9-4.自社で勤務する外部要員(外部委託先等から派遣されている者など)に対し、現場や常駐先における喫煙(時間や場所)を契約で制限していますか
委託先の要員が、常駐先や現場周辺で喫煙し、近隣住民から苦情が来たり企業イメージをダウンさせたりすることがあるため、業務委託契約で喫煙に関して制限をかけ、違反時のペナルティも明記する必要があります。とある自治体では、工事業者の喫煙に関する苦情があるとペナルティを課して次回の入札でマイナス点としているそうです。
また、準委任契約の場合には、喫煙による離席を1年に換算すると1か月分に当たることから、委託先要員が喫煙者の場合は1年あたりまるまる1人月分の人月単価を捨てることになります。そのため受託業務遂行中の喫煙禁止もしくは、喫煙時間は役務提供時間から除外することは契約で定めたほうがよいでしょう。
常駐要員の場合には、「喫煙後45分間は常駐事業所のエレベータを使用しないこと」なども契約に定めることができるとよいです。
逆に取引先に自社の従業員が常駐する場合、取引先に対し受動喫煙対策やスモークハラスメント防止を要請、または契約に盛り込む措置も従業員を守るうえで必要です。
その他、代理店など自社サービスを販売する取引先に対すし喫煙・受動喫煙の害、および喫煙対策が生産性・風評の向上に有効であることを啓発する研修会の実施を義務付けたり、自社が委託先にそのような研修を積極的に実施してもよいと思います。
10.法令等遵守
10-1.事業所が存在している国・地域のタバコに関する法令上の規制をすべて把握し、新たな情報や法令改正の動向を必要な関係者へ共有する仕組みはありますか
海外に事業所がある場合はその国における喫煙規制、国内各地に事業所がある場合にはその地域の受動喫煙防止条例などを把握しておく必要があります。
法務部門の協力などを得て、事業所において関連する法令上の規制を一覧化し、認識次第適時にアップデートしつつ、定期的(少なくとも年1回)見直しを行う必要があります。
ブータンのようにタバコの販売自体が禁じられている国や、加熱式タバコを所持しているだけで懲役刑になる国もあります。
また、タバコ対策はPDCAで継続的改善を図っていく必要がありますが、特にこの近年のタバコを取り巻く社会的情勢は非常に早く、条例もあちこちで新たに制定されています。これらの情報を適時に入手し、必要な関係者へ共有できる仕組みを確立しておく必要があります。
10-2.すべての事業所で、健康増進法や所在地の受動喫煙防止条例その他の規制を遵守していること、その他受動喫煙対策状況を、定期的に点検し、把握していますか
以下の点は、最低限把握しておきたいです。
- 禁煙の事業所で隠れ喫煙が横行していないか
- 喫煙所の設置状況
- やむを得ず喫煙可の区域や喫煙所を設置している場合
- 健康増進法その他の法令の設置基準に準拠しているか
- 必要な掲示をしているか
- 喫煙所が厚生労働省の定める技術的基準を満たしているか
※満たしていない場合、技術的基準を満たすために工事をするより撤去して禁煙化を図る方がよいです - 煙が漏れていないか
- 煙の排出先は適切で近隣から苦情が来ていないか
- 20歳未満の立ち入りを禁じ、その旨掲示しているか
- 健康増進法その他の法令で求められている場合、必要な届出を行っているか
- 労働者の募集および求人の申込み時の受動喫煙防止対策の明示をしているか
- 他所からタバコの煙が流入してきていないか
これらは人事や健保等の担当者だけでは把握しづらいため、総務部門等の協力を得る必要があります。
自社の管理範囲に喫煙所が無くとも、テナントとして入っているビルに喫煙所が存在する場合や、禁煙でない飲食店や事業所が同一フロアにありタバコの煙が自社の事業所に流入している場合もあります。
10-3.喫煙等に関するルールが遵守されているか、モニタリングしていますか
喫煙制限のルールを策定して放置したままでは誰も遵守しないため、実際にルール違反の喫煙が行われていないかチェックするなど遵守状況をモニタリングし、組織内のタバコ対策の担当や、経営陣に共有・報告される仕組みが必要です。
また、ルール違反の喫煙や、スモークハラスメントについて、意趣返しされないように通報できる窓口を整備しておくことも必要です。
10-4.発言力・影響力の強い喫煙する役員や一部の幹部社員等に喫煙制限等に係るルールの免除など特別扱いをしないようにしていますか
喫煙に関するルールを整備しても、一部の喫煙者に特別扱いをしていると不公平感が残ります。2020年に国会議員や北海道議が禁煙の場所で喫煙し多くの批判を浴びたことは記憶に新しいことかと思います。
公平をきし、実効性のあるものにするためには、上級役員であろうと同様に適用する経営陣の覚悟が必要になります。
その他、チェックリストの対象ではないが、できそうなこと
- 子会社、関連会社にも同様に働きかける
- 健康経営優良法人認定制度へエントリーする
- 健康寿命をのばそうアワードへエントリーする
- 営業に関わる社員はすべて非喫煙者とするか、喫煙禁止とする
- 非喫煙者が有利になるサービスの提供
- 生命保険、火災保険、自動車保険における非喫煙体割引
- 禁煙物件の設定、提供
- 全室禁煙ホテル
- 全室禁煙アパート
- 全車禁煙車のレンタカー など
- 保養施設を全面禁煙とする
- 福利厚生で宿泊補助金等の支給対象となる施設を全面禁煙の施設のみとする
利用者に子どもがいることを知りながら、喫煙可の施設の利用に補助金を出すことは、東京都子どもを受動喫煙から守る条例に照らし不適切との東京都福祉保健局の回答あり。