千葉市「JR海浜幕張駅周辺地区への喫煙所設置による路上喫煙・ポイ捨て防止効果を検証する実証事業」に関する検証(要約)

1.背景目的

千葉市は「JR海浜幕張駅周辺地区への喫煙所設置による路上喫煙・ポイ捨て防止効果を検証する実証事業」を実施し、最終報告書において喫煙所設置後に過料件数、散乱ごみ数、路上喫煙率が減少したと結論づけた。しかし、この期間は新型コロナウイルス感染拡大による人流減少期と重なり、また喫煙所を設置していない他駅の状況が示されていない。さらに本事業には日本たばこ産業(JT)が関与していることから、結論の妥当性に疑問が生じた。そこで本研究は、他駅のデータも含めて再検証を行い、喫煙所設置効果の実態を明らかにすることを目的とした。

2.方法

対象は平均過料件数、平均散乱ごみ数(タバコの吸い殻)、路上喫煙率の3指標である。情報は千葉市に情報提供を依頼し、海浜幕張駅に加え、千葉駅・稲毛駅・蘇我駅の各駅に関する詳細データを入手した。期間は喫煙所設置前(平成30年4月1日~10月8日)、設置後(平成30年10月9日~令和2年10月8日)、および喫煙所閉鎖期(令和2年4月15日~6月15日)とした。これらのデータを駅ごとに集計・比較した。

3.結果

  1. 平均過料件数
    海浜幕張駅では喫煙所設置後に平均過料件数が57.1%減少したが、喫煙所を設置していない千葉駅でも33.1%、稲毛駅で37.8%、蘇我駅で30.7%と、いずれも減少が確認された。

  2. 平均散乱ごみ数(タバコの吸い殻のみ)
    海浜幕張駅では喫煙所設置後、タバコの吸い殻が設置前に比べて6.7%増加した。一方で、喫煙所を設置していない千葉駅・稲毛駅・蘇我駅の3駅では、いずれも減少がみられた。

  3. 路上喫煙率
    海浜幕張駅では喫煙所設置後に路上喫煙率が24.3%減少したが、非設置駅では稲毛駅が25.5%減少した一方で、千葉駅は24.3%増加、蘇我駅はほぼ横ばいであった。閉鎖期間中はいずれの駅でも変動が大きく、一定の傾向は示されなかった。

4.考察

過料件数は全駅で減少傾向にあったが、もともと1日平均1件前後と少なく、海浜幕張駅の減少幅は他駅よりわずかに大きい程度にとどまり、統計的な意味を見出すのは難しい。散乱ごみについては、非設置駅で減少した一方、海浜幕張駅のみで増加が確認され、喫煙所が吸い殻散乱を助長する可能性が示唆された。路上喫煙率も稲毛駅で海浜幕張駅以上の減少がみられ、喫煙所設置そのものが減少要因とは言いがたい。閉鎖期の急増は人流や調査方法の影響が大きく、因果関係を導く根拠とはなりにくい。総合的にみて、千葉市報告書が喫煙所設置効果を強調した結論は、調査対象の選択やJTの関与による偏りを含む可能性が高い。

5.最後に

本再検証は、喫煙所設置が路上喫煙やポイ捨て防止に効果的であるとまでは言えないことを示した。むしろ吸い殻散乱が増加する可能性があり、公費を投じて喫煙所を整備する合理性は乏しい。千葉市報告書が他駅データを除外し、特定の情報のみを根拠に結論を導いた点は、タバコ産業との関与を背景とした恣意性が疑われる。今後はWHOタバコ規制枠組み条約第5条3項に基づき、タバコ産業からの干渉を排除した公正な検証が求められる。


本稿は、「日本禁煙推進医師歯科医師連盟通信」第33巻第3号(2024年12月27日発行)に投稿されたものを要約したものです。

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