『喫煙社員ゼロの時代へ』書評と企業の禁煙化推進について

2019年9月に出版された上記書籍について。

企業社員全体の禁煙化をしなければならない理由(Why)、具体的な目標として「全社員をゼロにすること」を提唱しその前提で何をすべきか述べられていること(What)、そして具体的な手順や施策例(アンケートのサンプルや豊富なトークスクリプト等)などの方法論(How)が述べられているという点で、経営者、産業医・保健師、衛生委員会メンバー、人事担当者等が企業の禁煙化にあたり【参考にするため】のリファレンスとしては良いと思いました。

他方、以下の点については疑問があります。

1.唱導的・圧力型の禁煙支援により「禁煙は簡単だ」と繰り返し述べているところ

私は禁煙支援のプロではありませんが、禁煙が簡単かどうかは個人差があり、またMIや●●療法など個々の喫煙者に応じた多様なサポートのあり方があると思っています。

著者の提唱する禁煙支援の方法論は、少々時代遅れ感・思い込みが強い感があります。著者は実際に禁煙支援した経験があるのでしょうか。

2.企業の禁煙化において、キーパーソンである産業医・保健師や衛生委員会が登場してこない

企業の禁煙化推進においては、これらキーパーソンを活用するのがカギだと思うのですが。

主な読者層となりうる産業医・保健師がどんな施策をしていくべきか書かれていれば、もっと実用的な本になったと思います。

3.根拠に乏しい

経営トップが最も気にする企業社員の禁煙化による生産性・レピュテーションの向上について、具体的な根拠に乏しいと思いました。

磯村先生の予備校生の調査くらいしか引用されていません。

4.トップダウンが前提の方法論

具体的な方法論が述べられているのはよいですが、この本に書かれている施策をすべてやろうとすると、社員を1人は禁煙化専任で常時張り付かせる必要があったり、それなりにお金がかかったりします。つまりトップダウンを前提とした方法論になっています。

それだけのリソースを割くためにはまずは経営トップの理解を得ることが必要ですが、「経営トップをどう動機づけるか」「ボトムアップでどう進めていくか」という、産業医・保健師・人事担当者・職場受動喫煙被害者等が最も必要とする方法論に欠けていました。

経営トップが初めからやる気だったら、この本読まなくてもわりとどうにでもなります。

やる気のあるワンマン社長にとっては、参考になると思いますが、現場担当者が読んでもかゆいところに手が届かないかも?

企業の禁煙化推進のカギは、経営に如何に禁煙化推進の重要性を認識してもらうかだと思います。

具体的な企業の禁煙化推進のベストプラクティスについては、企業におけるタバコ対策一覧(チェックリスト)にまとめておりますのでご一読ください。