第13回日本禁煙学会学術総会の主なトピックス

2019年11月3~4日、第13回日本禁煙学会学術総会(山形)に参加してきました。

前日の夜は、気のおけない全国のタバコ対策の仲間たちと久方ぶりに再会し、紅山水という完全禁煙のお店で楽しい会話と蕎麦懐石を楽しみました。(本当に美味しかった!)

今回の日本禁煙学会学術総会では、2時間の講演、1つの一般演題口演、1つのポスター、共同演者として1つの演題、計4つの発表を行いました。

いくつかトピックスについて記載します。

「ゼロから進める地域の禁煙化推進」(筆者が講演)

大会長の川合先生のご厚意で機会をいただき、友人の加藤先生が座長となり、地域の禁煙化推進活動を「これから始めたい人」「うまくいかなくて悩んでいる人」をTargetとして、講演しました。

同時並行で催されている3つのプログラムがいずれも魅力的なものであったため、参加者は少ないかと思いきや満席で立ち見の方もいらっしゃいました。

内容としては、この禁煙化推進の手引において述べられていることばかりですが、以下の「心構え」のスライドを入れました。

心構え

SNSや、禁煙関連団体のメーリングリストでは、世の中の禁煙化の状況について

  • ●●であるべき
  • ●●ができていない
  • ●●が問題だ
  • ●●の意識が低い
  • ●●が不勉強
  • ●●が遅れている

などと、批判ばかりが目立ちます。

しかし批判し、現状を嘆き、他者を責めるだけでは何も世の中は変わりません。

本当に地域を禁煙化したいのであれば、他責思考から自省思考へ思考パターンを大きく変え、かかる状況において自分がどう動けば解決するのかを考えて行動し、うまくいかないならば他者のせいにせず自分がどう動けばよかったのか省みて、自分が苦手なこと持っていないスキルや要素をどうやって補っていけば地域の禁煙化が実現できるのか、考え抜いて自ら行動することが大事だということを強調しました。

主な質疑応答

  1. ただしい文書の作成が大事とのことだが、どういう人にチェックしてもらえればよいか?
    • 行政の人を巻き込めるならば、チェック者として最もふさわしいと考える。
    • 民間企業で企画部門や営業部門にいる人も、日々企画書を作成し魅せる文書を提案する仕事に習熟している。
    • その他、弁護士、司法書士、行政書士等の法務関連職が挙げられる。
  2. 行政内部の公衆衛生部門でタバコ対策に関する啓発を進めているが、定期人事異動で啓発した人たちが異動してしまってまたやり直しになっている。どのようにしたらよいか?
    • 発想を変える。
      啓発してタバコ対策について正しい知識を持った方が、全庁に拡散していくことは、むしろ望ましいことと考える。タバコ対策は公衆衛生部門だけで完結するものではなく、多くの場合様々な部署と連携していかなければならない。啓発した職員が異動後も、タバコ対策のことで連携ができるように、関係を維持し協力関係を築くこと。
    • 公衆衛生部門においては、定期的にタバコ問題についての研修会を行える機会・仕組みを作ること。同じ話を聞く人がいたとしても、逆に同じ話を繰り返ししていくことで「そういうもんだ」と定着していく。
  3. 地元で禁煙化の啓発を進めて理解は示してくれても、なかなか当地の禁煙化推進団体に加入してくれない。どうしたらよいか?
    • 加入してくれなくても問題は無い。無理に加入させる必要はない。
    • 禁煙化に理解のある人をみんな禁煙化推進団体に加入させてしまうと、「禁煙化の人たち」という色がついてしまうので、禁煙化推進団体とは距離を置いた立場から、援護射撃してもらい、「様々な立ち位置のキーパーソン」と連帯して申し入れなど禁煙化を進めていく方が、むしろ効果的である。

「一から始める新型タバコの疫学と臨床」(田淵先生)

田淵先生が、当該ランチョンセミナーのスライドを公開しているので、ぜひご参照ください。

その他良い意味で印象に残った発表

  • 自然遺産の出火を防止し来訪者を受動喫煙から守るために~観光客の立場から禁煙化を促すには~(荻野先生)
    • 足掛け5年にわたる、観光客の立場で丁寧に要望を続けた寺社仏閣の敷地内禁煙化の道のり。
    • 要望先に対する「愛情」と粘り強い交渉が功を奏したのだと拝察。
  •  プロ野球12球団の喫煙率及び各球団の禁煙対策(多田先生)
    • 12球団の平均喫煙率は37.3%
    • 最高は60.6%、最小は25.7%
    • 2017年の同年代(20~29歳)の一般男性の喫煙率(26.6%)と比較しても高い
  • 美唄市受動喫煙防止条例施行後、市民の急性心筋梗塞+脳卒中の発症が減少した(井門先生)
    • 個人的に、禁煙化推進の観点では最も素晴らしい演題だったと思う
    • 美唄市受動喫煙防止条例施行2年前から様々な機関に協力を依頼し美唄市民のの急性心筋梗塞と脳卒中の発症数を継時的に調査・統計解析し、条例施行前後で比較。
    • 条例施行後に美唄市民の急性心筋梗塞が11%、脳卒中の発症数が16%減少した
    • 罰則のない条例であっても、効果があった。
    • 残念ながら喫煙率は測定していなかった。これから測定する。
  • 秋田県受動喫煙防止条例成立の背景(鈴木先生)
    • 秋田県における受動喫煙防止条例制定の過程。
    • 当サイトで述べているような、多くの機関との連携と、時間をかけての丁寧な啓発・説明により実現した。
    • 「受動喫煙防止条例を制定したい他の地域に向けた心構えなどのアドバイスをお願いしたい」、と質問したところ、「反対派の意見をしっかり耳を傾けて聞くことも重要」と演者の鈴木先生が仰っていた。

その他所感

禁煙学会に参加する人が、「イノベーター」から「アーリーアダプター」も含まれてきたように感じました。

演題のレベルが上がってきている一方で、従前からいる禁煙化推進者の過激な活動に関する発表が失笑を誘っていた面も否めません。

 

また、喫煙防止教育を除く、禁煙化推進に関する演題はまだまだ少なく、まだまだこれから、という感じです。

大会長である川合先生は、禁煙化推進の重要性について強く認識くださっており、三顧の礼を上回る破格の礼遇で筆者に2時間の講演を依頼いただいたことに、心から感謝申しあげます。

雑感

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